見えない綱渡りの方が、迷いなく進めるのかもしれない。
私はクラシックの中でも、ロマン派の作曲家が好きです。
知識が深いわけではないので大雑把な分類ですが、その後の「現代音楽」と言われるものは、どうしても好きになれません。
「同じメロディの繰り返しは聴取者に甘えている」「楽器の能力を最大限に引き出す」「楽器に語らせる」……。
私にはどうにも理解できないというか、それが「良い」と思えないのです。
本日の通勤では「シェエラザード」を聴いていました。
この曲は、同じメロディが形を変えて何度も繰り返されます。
楽曲のモチーフも、王妃が命を繋ぐために「物語を語り続ける」お話です。
千夜一夜物語を紡ぐヴァイオリンの主題が、形を変えて何度も現れる。
その「繰り返し」が、聴き手に安心感と物語への没入感を与えてくれます。
人は変化を嫌う生き物だ、という側面があると思います。
毎日同じことが繰り返されることに、安心感を得る。
でも、時々は飽きて退屈してしまうので、旅行に行ったり、いつもと違うことをしたりしますね。
それは、いわば「良い変化」です。
一方で、例えば企業が合併し、新しい文化との融合が始まるような変化もあります。
共通基盤が異なる人々が、新しい基盤を共に作っていく。
私はどちらかと言えばそうした変化を楽しいと感じる方ですが、それを好まない人もいます。
私たちの明日は誰にもわかりません。
だからこそ、今日と同じ明日が来ると思えることが安心につながります。
武士の教科書と言われる「葉隠」には、「今日が人生最後の日だと思い生きよ」という言葉があります。
後悔のないよう、あらゆることに一生懸命取り組もう、ということでしょう。
「本当に明日は来ないかもしれない」という環境に身を置くことは、安心とは真逆の状態です。
しかし、どうしてもそういう瞬間に直面することがあります。
大病を患えば、当たり前に繰り返されると思っていた毎日が、そうでなくなります。
ビジネスでも日々の生活でも、危機は予期せぬところからやってきます。
戸惑い、考え、立ち止まる。
そして、また進む。
その変化こそが、人それぞれのドラマであり、物語なのだと思います。
私たちは他人のドラマには共感し、感動しますが、「もし自分だったら……」と考えると、やはり足がすくんでしまいます。
もちろん、素敵な結末は歓迎ですが。
安定した毎日がいい。
けれど、もし綱渡りをしなければならないのなら、下が見える高さよりも、いっそ何も見えないほど高い方が、迷いなく進めるのかもしれません。
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