
大切にしている万年筆を無くしました。
PARKERの青い万年筆で、赤い革の一筆挿しに入れていました。
お気に入りで、仕事のメモやお礼状など手書きの書類に愛用をしていました。
ひらがなを書く時の、文字の膨らみ具合など、とても気に入っていました。
通勤電車の遺失物センターにも問い合わせをしまいたが、届け物なし。
通勤で歩く道は、まるでお金を探すように目を凝らして探しましたが、見つかりません。
途中、雨の降る日もあり、「ああ、もう革のケースはダメだなぁ」なんて。
足元を見られる。
営業職である私には大切な事で、靴はいつもピカピカが信条です。
若い頃は「高いなぁ」と思いながら、自分への投資だと思い少し高い靴を無理して買っていました。
暑い日、寒い日、晴れの日、雨の日、嬉しい日、悔しい日…。
共にいろいろなところを歩き、手入れをしながら、大切に履いています。
一番長い付き合いの靴は15年前後の付き合いです。
新幹線や飛行機で、自分の足元できれいに光っている姿を見ては、悦に入る事もあります。
思いが長く、心が募る事がありますね。
自分の子供が誰かに愛されたり、誰かを大切にする事はいい事だなと思います。
その子(以後、ゆみちゃん・仮名とします)は小学校の入学式で息子(以後、タロウ・仮名とします)の隣の席になりました。
とても可愛い女の子です。
入学して、しばらくしてゆみちゃんがお母さんと我が家にお詫びに来ました。
ゆみちゃんが帰宅して折り紙を見たら、お母さんが買った覚えのない折り紙がありました。
それをゆみちゃんのお母さんが、ゆみちゃんに問い詰めると、隣の席のタロウの折り紙を持って帰ったとの事。
そんな事で菓子折りを持参し、ゆみちゃんはお母さんと誤りに来たのです。
妻は恐縮していたそうです。
当のタロウはどうかと言うと、折り紙がなくなった事など、気づいてもいません。
入学して間もない頃、ランドセルを玄関に置いたまま登校する子です。
学校でもいろいろなものをなくしましたが、本人曰く「だいたい、職員室の前の落し物箱に行くと、僕のあるんだよ」と悪びれず言います。
事実、この事は担任の先生との個人面談でも指摘をされたのです。
後から、ゆみちゃんのお母さんから聞く事ですが、ゆみちゃんはタロウに恋心を抱いていました。
ゆみちゃんは折り紙が欲しいのではなく、タロウの折り紙だったので持って帰ったのです。
ゆみちゃんとは小学校、中学校と同じ学校でした。
その後も、ゆみちゃんはタロウへ思いを寄せていてくれていました。
タロウは誰に似たのか、小学生の頃から毎日遊ぶ事に忙しく、そういう気持ちを感じてとれるところは、しばらくなかったと思います。
バレンタインデーでも、母親以外からチョコレートをもらえる事が嬉しくて自慢なそれだけで、その気持ちを理解するには、しばらく時間が必要でした。
中学校の近くの公園にゆみちゃんとタロウの相合傘の落書きがされました。
コンクリートの壁に、石で書いたのものです。
ゆみちゃんが、友達と公園で話をしていて、友達がそれを書いたのだと思います。
これが近所の無粋な人から学校に通報があり、ゆみちゃんは呼び出されて先生から確認をされ、怒られました。
誰だってつまらない授業の時に、自分の苗字と気になる子の名前を重ねたりする事をやった事があると思います。
ん~なかなかいい感じだな…なんてね。
ひとりで照れて、くねくねしたりします。
学校に通報するなんてつまらないと思いましたが、公園の近所に住む人にすれば楽しい事ではありませんね。。
タロウの名前があった事とゆみちゃんが怒られた事は、他のお母さんから妻が聞きました。
ゆみちゃんも、タロウも少女と少年になっていました。
ゆみちゃんは中学3年生のバレンタインデーで意を決します。
お母さんと手作りのチョコレートを作ります。
本人は思いが伝わるように。
お母さんはそんな娘の健気な思いを応援しながら手伝いをします。
私はそんな姿を想像するだけで涙が出ます。
ゆみちゃんの恋心は2月の空に吸い込まれて行きました。
どんなに大切にしていても、万年筆は壊れる事もあるし、なくしてしまう事もあります。
長い間思い入れがあるものこそ、失うと残念ですが、諸行無常のこの世では仕方のない事…と気持ちに折り合いをつけます。
でも、心の中でその事が大きなところを占めていたのならば、それがなくなった心の大きな空洞はなかなか埋める事ができませんね。
たくさんの思いがつまった部分が欠落してしまうと、その大きさに改めて自分で気が付く事があります。
残念な事は、それを失ってからでしたか気づけない。
そして後悔が伴ってしまう事ですね。
気持ちに折り合いをつけるのは、とても大変です。
ゆみちゃんにも、タロウにも素晴らしい恋をして欲しい。
人を好きになる事、誰かが自分を好きになってくれる事。
ちょっと苦い思いを重ねなながら、そんな事を知ってゆくのでしょう。
それは、誰もがいつか通る、そんな道ですね。
聞こえないはずの声がする
体中が痺れて裂けてく
「さよなら」と心だんだん離れていっても
君の仕草は忘れたくないんだ
明日の朝にはもういないんだね
今日も今日も今日も 空は晴れ
いつも自分に言い聞かせる
君の目にはもう僕はいないと
夜も朝も射す光はいつも同じで
確実に過ぎていった毎日
未来を夢見たあの日の僕
今日も今日も今日も 空は晴れ
aiko / キョウモハレ
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