おじちゃんは、おばちゃんを愛してたんや!
薬師丸ひろ子さんの「Wの悲劇」と、原田知世さんの「天国に一番近い島」は同時上映でした。
二本立て…懐かしい響きですね。
「Wの悲劇」は力作。
物語もドラマチックで、見応えがありました。
しかし、私は「天国に一番近い島」が真打です。
「Wの悲劇」が先でしたが、立ち上がって帰る人は殆どいなかっと思います。
この映画で何より印象に残ったのは、原田知世さんではなく、乙羽信子さんでした。
演技は秀逸であり、それ故にとても印象に残っているのです。
乙羽信子さんの役柄は、太平洋戦争で夫を亡くした未亡人役でした。
映画では南太平洋の夫が戦死した海へ、献花に行くシーンです。
その海域で「お国の貴金属供出にも出さなかった」指輪を「あなたにもらったものだから、あなたに返します。私だったと思って下さい」と海に投げます。
そこで、同乗している女性が問いかけます。
教えて下さい。
39年も経って、それでも忘れないっていうのはなんなんですか?それはこんなお婆さんが言うと恥ずかしいんですが、愛ですわ。
それとも自分自身の誇りかしら。
誰かを好きになった。
その事への人間としての誇りね。
うまく言えないけれど、愛ってそういうもんじゃないかしら。
誰かを愛した。
その時の自分の心だけは決して忘れちゃいけないわね。
愛って結局は自分のための物語ね。
映画「天国にいちばん近い島」より
当時、私はこのシーンで涙が止まりませんでした。
誰かを愛するという事の崇高さ、愛し、愛される事が、人の誇りとして、人が生き続ける理由になる事に感動しました。
愛される事も、愛し続ける事ができる事も羨ましく、素晴らしいと思いました。
高校生に何がわかる…というところですが、本当に私は感動したのです。
周りに泣いている人がいるかどうかは、確認もしませんでしたが…。
多分…いないですよね。
先日、日本経済新聞の夕刊コラム「プロムナード」を読んで、この事を思い出しました。
その日の海は荒れていた。叔母は元気な声を絞りだすように、生前の叔父について話を始めた。
「おじちゃんはなあ、私がご飯を持っていかないと食べなかったんや。
他の家族が持っていってもダメで、私の時だけ食べたんや。
おじちゃんは、おばちゃんを愛してたんや!」。
そう言ったあと、うわーんと豪快に泣いた。愛してた。その一言に、私は完全に心が射抜かれた。
おばちゃん、最高だね。
いまそう言えるおばちゃんも、愛がある二人の人生も最高だね、と私は言った。
川内有緒 荒れた海で愛を叫ぶ
2024年8月31日 日本経済新聞
グッとこらえました。
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