強くやさしい人になりたい
マニー・パッキャオ
フィリピン、ミンダナオ島出身のボクサーです。
極貧の中で育ち、ボクサーとして6階級制覇という驚異的な記録を残しています。
身長は170㎝に満たないボクサーとしては小柄なタイプですが、自らよりも上の階級の黒人や白人選手と戦い勝利して行きます。
私たちは巨大な敵に少数の力で勝利を収める戦いに関心を示します。
例えば、織田信長の桶狭間の戦い、日露戦争がよく例になると思います。
育ったミンダナオ島の極貧で厳しい環境を少しでも改善させたい。
ファイトマネーを祖国に還元し、国会議員にもなって、故郷のために戦います。
議員もしながら、プロボクサーという大変な二足の草鞋を履くのです。
しかし、この厳しい環境がボクサーとしてのパッキャオを追い詰めて行きます。
厳しい環境の中で、限界がささやかれ始めます。
そして、宿命のライバル、マルケスとの世紀の決戦。
文字通り死闘となり、マルケスを追い詰めたと思ったその瞬間。
勝利を確信した瞬間に落とし穴が待っていました。
結末は衝撃的でした。
マルケスの渾身の一撃にマニー・パッキャオはマットに沈みます。
ミンダナオ島ではテレビの前に皆が集まり、応援しています。
見ている人の、応援している人の目は真剣そのものです。
皆、パッキャオと一緒に戦っています。
パッキャオも地元の期待と希望を背負い戦っている事を痛いほど感じています。
結果が示された瞬間。
会場では悲鳴と落胆の声が上がり、茫然と映像を見つめる人が映りました。
パッキャオが飛行機で故郷へ帰る映像がありました。
飛行機の中で、彼は地元の期待に応えられなかった事をさらに痛切に感じているようでした。
申し訳ない…映像からは、そんな表情を読みとる事が出来ました。
故郷で、どんな罵声を浴びせられるだろう…。
石を投げられるからもしれない…。
誰も話なんて聞いてくれないかもしれない…。
そんな彼が空港から、車で地元へ到着すると…。
そこは賞賛の嵐だったのです。
故郷のために、命を懸けて戦った男を皆が賞賛し、歓迎しているのです。
車が通る沿道にはたくさんの人が押し寄せ、命を懸けて戦った故郷の英雄パッキャオを賞賛しているのです。
自分よりも大きな敵に、小さい身体で果敢に戦った男。
その姿に勇気を、生きる力をもらったからこそ、皆が賞賛しているのです。
心から応援したからこそ、賞賛しているのです。
彼は最初は戸惑いながらも、沿道の人から寄せられる歓声に答えてゆきます。
そして…
「俺は故郷を背負って、皆の期待を背負った戦ってきたと思っていたが、支えられていたのは自分だったんだ」
パッキャオはそう語ったのです。
NHKスペシャルでこの内容は放送されたのですが、私はしびれてしまいました。
貧困から来る哀しみや苦しみをなくしたい。
誰もが笑顔でくらせる、そんな日常を。
彼が自分の苦しかった幼少期を思い、自分を闘鶏になぞらえ、でもこれを解決してみせるという闘志を燃やします。
哀しみを、力に変えるのです。
そして、負けたパッキャオが初めて感じるその思いは、哀しみを、自分の苦しみを人へのやさしに昇華させるものだったと思います。
ここに強くやさしい男がいると私は思います。
日本の障害児教育の祖である石井亮一さんは、伴侶である筆子さんにこんな言葉を残しています。
「人は、誰かを支えている時には、自分のことばかり考えるけれど、実は相手からどれだけ恵みをもらっているかは、気づかないものだよ」
パッキャオが感じた思いも同じでしょうか。
石井亮一さんやパッキャオの様にはなかなかなれませんが、私も強くやさしい人でいたいと心に思います。
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